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その頃。
宮司も咲良の置き手紙を読んでいた。
『宮司さまへ
物心つく前から今日まで育てていただき、本当にありがとうございます。
禁域の宮の中の生活は、とても楽しゅうござりました。』
「楽しかったのですか?
閉じ込められて気詰まりだったでしょうに」
『わたくしが寂しくないようにと、沢山の式神や付喪神の皆さんを傍に置いてくださったこと。
星読みの勉強ですと言って、蛍を見せていただいたこと。
沢山のことをしていただきました。
それから、いっぱいいっぱい甘やかしていただいたことも、わたくしは絶対忘れませぬ。』
「甘やかしてましたか?
私はいつも厳しくしていたというのに」
子供など大嫌いだった。
煩くて騒がしくて、汚ならしくて、がんぜなくて。
だが、咲良だけは違った。
いつも機嫌良く遊び、宮司が教える事を素直に吸収した。
厳しい教えにも、しっかりついてきてくれた。
穏やかに笑い、気遣いを見せてくれた。
いつの間にか、傍にいるのが当たり前になり。
知らない内に、手放したくないと思うようになった。
『以前、仰ったことがありましたね。
こんな気詰まりな生活にウンザリしないのかと。
ウンザリする暇などありませんでした。
楽しくて、嬉しくて、退屈すら縁遠い毎日でしたから。』
「そうですか……退屈しませんでしたか………」
銀髪を揺らして笑う咲良の幻影が見えて、手が少しだけ震えた。
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