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宮にいる者達は、料理が得意ではなかった。 極端に味が濃いか、極端に味が無くて食べれたものではなくて。 「宮司さま、宮司さま! ちゃんと食べないと、たおれてしまいまする!」 眉毛を八の字にして、緋色の瞳を潤ませて訴えた童子。 あの不味い食事で味覚が崩壊しなかったのは奇跡だと思う。 「何をごよういしたら、宮司さまはよろこんでくださいますか?」 「ぷりんですかねぇ……」 「ぷりん?何ですか、それは。 どんなものでござりますか?あまいのですか?しょっぱいものですか? 宮司さまがちゃんと食べるのなら、さくらはたくさんたくさん作りまする!」 「じゃあ、教えてあげましょうね」 「はいっ!」 作り方を教えたのは宮司だった。 「わあ……っ」 咲良が初めて作ったぷりんは、ぷるぷるでトロトロで、宮司が今まで食べたもののなかで一番美味しいものだった。 それからは、踏み台の上にあがって三度のご飯とぷりんを作ってくれた。 宮司が舌鼓を打つのを見て、銀色の髪を揺らして微笑んでくれた咲良。 その現影が、いきなり飛び込んできた嵐に打ち破られた。 「咲良は何処よっ!! 隠してないで出しなさいっ!!」 襖という襖、扉という扉の全てを乱暴に開け放つ音と、床を踏み鳴らす音がする。 「騒がしいですねぇ……」 眉間に皺を刻み、宮司は立ち上がった。

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