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「出てきたわね、クソジジイ。 アタシが淑やかかどうかなんか、今は関係ないわよ! 出しなさいよアイツを!」 「アイツとは誰でしょうねぇ」 「こんな辛気くさい場所に、他に誰がいんのよ! 咲良に決まってんでしょ! 出しなさいよ!」 尚も食い下がる咲耶に、宮司は更に冷ややかな一瞥を向ける。 「そうですねぇ。 確かに貴女にとっては辛気くさい場所でしかないでしょうね。 訳の分からない理由で捨て子同然で預けられて、一度も注連縄の内側から出る事を許されなかったあの子にとっては、家だったんですがね」 「………………っ」 「今どき、双子なんか掃いて捨てるほどいますよ。 江戸時代ならともかく、文明も進んだ今になって双子は不吉だのなんだの馬鹿らしい限りです。 あなたたち二人が母親の腹の中でどんな繋がりを築いたかは知りませんが、こんなクッソ生意気な娘の災厄を全て引き受けるだけの一方通行な流れを作るからこんなことになってるんです。 私とて、可愛い弟子をみすみす鬼の生き餌などにしたくはありませんでした。 ただの虚勢張りの詰まらない馬鹿娘の身代わりなんぞやめてしまえと何度も言いましたよ、私は。 それでも、正気を失ったままでは咲耶が輪廻の輪に戻れなくなるのは嫌だと聞かなかったんですよ。 言えば怒るだろうから、絶対に黙っていてと言い含めてまで!」 誰に。 決まっている。咲耶にだ。

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