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『本来であれば、春日の家の長男としてしっかりしなければいけない立場なのに、何にも出来ていない事が心苦しいと思ってきたし、咲耶に全部を押し付ける形になっているのが申し訳ないと思っています。
惣領娘として誰よりも優れて当然と期待され、期待以上の結果を出そうと頑張る咲耶に何もしてあげられないのが、わたくしは悔しくてならないのです。
ごめんなさい、咲耶。』
「………………っ」
『今日からは、わたくしの存在に縛られずに生きてください。
罪悪感なんかも必要はありません。
なりたいものを目指し、自分自身の将来の為に必要なものを選び取っていってください。
本当になりたいものは、お医者様ではないでしょう?』
「……………………咲良……」
言わなくても気づいていた。
咲耶がずっと言えずにいたことも、強がっていたことも。
『全てを忘れて生きてと言っても、咲耶は忘れてくれないでしょう?
だから
一陣の風を呼びますね。
さようなら、咲耶。
どうか、いつまでも息災で。』
「………………え?」
手紙が光を帯びて咲耶の手から離れる。
空から星がこぼれるような清らかな音がした瞬間、咲耶はベッドの上に倒れた。
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