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想いの蕾
「………………?」
いつも抱っこして寝ている筈のもふもふした感触がない。
逆に、自分を包み込む重さに違和感を覚えて目が覚めた。
動かせる範囲で視線をめぐらせると、見慣れない天井……、壁……、青年の姿。
通った鼻筋、意志の強さを示す唇。
誰だろう、この人は……。
寝入る前を思い返してみる。
『…………夢ではない………………。
わたくしは境界の向こう側に来ていたのでしたね……』
漸く、腑に落ちた。
昨日の出来事は夢ではなかった。
『どうしよう……。
大事なご婚儀をわたくしは潰してしまった……。
今日は絶対にご実家にお詫びを入れに行かないと……』
気持ち良さそうに眠る守弥。
何一つ怒ることなく咲良を気遣っていてくれたことに、申し訳なさばかりが募る。
『どうにか、宮司さまと連絡を取らないければ……』
外はまだ薄暗い。
気持ち良さそうに眠る守弥を起こさぬよう、咲良はそうっとベッドから抜け出した。
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