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今まで咲良が関わってきた人間は数えるほどしかいない。 宮の神職たちは咲良を可愛がってくれた。 宮司は沢山の術や勉強も……。 家族は……。 姉の咲耶は咲良を大事にしてくれた。 「双子の役割を刷り込まれて育ってきたのもあるかもしれないが、きょうだいや家族の為に身代わりを引き受けたり、犠牲になるのを疑問に思わないのは可笑しいぞ。 少しは断れ。 自分を優先する事を覚えろ。 万が一あちらとの道が繋がったとしても、今までと同じ事をするなら俺はお前を彼方の世界へは戻さないぞ」 「………………っ」 視線を移すと、吐息が触れる距離で覗き込む瞳が咲良を射抜く。 「………でも……、わたくしは……」 「お前にとって普通でも、俺からみれば普通じゃない。 物心つくかつかないかの時から閉じ込められて制限ばかりを押し付けられて生きるのは、明らかに人権侵害だ。 俺は認めない。 我が儘に振る舞え。 やりたい事をやれ。 言いたいことを言え。 行きたい場所に行って、思う存分自分を開放してみろ。 それから、甘えることも覚えて自分を優先しろ」 「………………っ」 逞しい腕が咲良を抱き締める。 今まで咲良が当然に思っていたことは異常で、もっと自分を大事にしろと。 そういう気持ちが伝わってきた。

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