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木のうろに巧妙に隠した。 高い草丈も良い目眩ましになるはずだ。 親子が暮らした家の中はうっすら埃が積もっていて、住人が暫く留守だったことは窺い知れる。 護矢比古の母を社に引き取ってからは、まだ誰も足を踏み入れてはいない。 だが、家の外は少し探った跡がある。 夜刀比古の母の差し金であるのは間違いない…。 『うまく誘導に引っ掛かってくれればよいのですがね…』 里の中へと向かう足跡。 それを追っ手がどう受け取るかだ。 『………』 微かに林の向こうから聞こえる喧騒は、護矢比古が行動を起こした証。 この里との交易があって関係も良い村はいくつかあるが、護矢比古が繋ぎをつけたであろう村へは険しい道のりになる。 『どうにか聞き分けてほしいが…』 長が知る限り、護矢比古ならば母と香久良の二人を担いで駆けようとするはず。 濃すぎる呪いを背負ったまま、長時間の道程は危険すぎる。 呪い自体が担いだ二人にも牙を剥かないとは言い切れない。 里の境を越える前に発動してしまえば、動けなくなった三人とも里人に殺されてしまう。 ただの殺害ならまだしも…。 『あれは、見せしめというよりも…なぶり殺しに近い…。 少なくとも、あの三人はそんな目に遭わせていい存在ではない。 不遇な日々を経て出会っただけだ。 それが罪だといえるのか…』 立場が違えば、里長の息子と許嫁であったかも知れないのだ。 『どうにかしてやれたら…』 事がうまく進むようにしてやりたい。 社へ続く獣路を急ぎながら、社の長は願い続けていた。

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