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「しゃがむぞ」
固まったままの咲良に声をかけ、守弥はゆっくり膝をついた。
肩に担いでいた体勢から、膝の上に降ろす。
「もう一回言う。
選定の泉を危なげ無く渡ってきた正式な花嫁だ。
名前は咲良。咲いて良しと書いて咲良だ。
咲良、面を外すぞ」
「………………は、はい……」
本当は外したくない。
左半身に散る黒い痣を晒したら、きっと穢らわしいと思われる。
怖い。
だが、守弥に対して否やを言うことも躊躇われる。
まごつきながらも紐を解く。
「大丈夫だ。安心しろ」
ギュウッと目を瞑ってしがみつくと、顔を覆っていた面が外された。
怖い。
怖い……!
いつまでも顔を隠していることはできない。
手だてを見つけて咲耶と交代するまでは、花嫁の役目を全うせねばならないのだ。
分かっていても、体が震える。
「咲良」
「………………はい」
咲耶の名代として、守弥に恥をかかせてはいけない。
気持ちを固めて、恐る恐る体の向きを変えた。
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