127 / 668
・
一方、宮の石庭にたたずむ時雨。
部屋の中を暴風が吹き荒れた時の事を思い返していた。
「あれって、なんなんだろうねぇ……」
ひとりごちる。
咄嗟のことであったし、気のせいかもしれない。
しかし、確かに見たのだ。
守弥を庇うように立ちはだかった咲良の腕や脚に、微かに浮かび上がった光の茨を。
それが、風の刃と稲妻を受け止めた瞬間、弾けて霧散していった。
「ばあ様は何も言わなかったし、見たのは俺だけかもねぇ……。
でも、あれが何かの封印なら……事態は好転するのかな。
…………兄さんの核を持ってるし、馴染みも悪くない。
それに、正嫡として認められるいい機会でもあるんだよなぁ……」
生まれた瞬間に″魂欠けの廃嫡″とされてしまった守弥。
分家の者に嘲られることも多かったが、卑屈になることもなく家族思いの優しい長男として育った。
「出来るなら……」
出来うるなら、二人には鬼と姫として添い遂げてもらいたい。
気になることはまだまだあるが、それはいずれ解明されていくだろう。
変に気を回し過ぎるのも何だが、妻乞いが成功するように手助けをして行こうと心に決めた時雨なのだった。
ともだちにシェアしよう!