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黒潮で生きる魚たちの大水槽の迫力に圧倒され、南国の魚達の水槽では色彩の鮮やかさにため息が漏れた。 「守弥さまが一番お好きなのはどの水槽なのですか?」 「俺が、か?」 「はい」 「俺が一番好きなのは、あれだな」 「…………っ、まぁ……っ!」 指さした先にある水槽を見て、咲良はほぅっと感嘆の息を漏らした。 「なんと美しいのでしょう……っ」 ほんのり青い光が満たす水槽。 その中を、光を受けてゆらりゆらりとたゆたうもの。 沢山のクラゲ達だ。 「不思議でございます……。 目や口がどこにあるか分かりませぬが、ゆらゆらと漂う様子は……太古の海で命が揺らめくようで……」 「ああ。 俺もそう思っている。 何てことはない水槽なのに、万物の命が揺らめくようで目が離せなくてな……」 「綺麗……」 「クラゲは脳が無いから意思も無いといわれている。 だが、本当にそうなのかは誰も分からない。 もしかしたら違うのかも知れない」 「…………」 穏やかな表情の中に、何故か寂しさや悲しみの感情が読み取れて、咲良は守弥の服の裾をキュウっと握った。 無意識のままに……。

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