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奥向きの更に奥、薬草園の灌木の蔭へ移動した。 「あのまま逃げるとは思いませんでしたが、本当に此処へ戻って来るなんて…。 結構無茶をしますね」 「前置きはいい。 香久良は何処だ」 「今はあまり体調が優れないのです。 あの方との話で分かっているのでしょう?」 「………」 子供を宿して間もない時期は、安静を保っている必要がある。 ましてや、香久良は姉に比べて少し成長が遅かった。 「母上と香久良さんの二人を担いで走るなど、無茶が過ぎます。 せめてもう少し時期を………選べる状況ではありませんが…」 「残された時間は多くない。 俺の意識が完全に塗りつぶされてしまう前に、山向こうの村までいかなきゃならない」 「………」 護矢比古の四肢に絡み付く黒いものは、じわりじわりと侵食を深めている。 声も時折嗄れた禍々しいものが混ざっている。 『香久良さんの頑張りで、かなり引いていた筈。 そこまで次期さまに宿る闇は深いのか…。 これでは、二人を担いで山越えは………』 里の境を突破するまで、獣腹の者だという警鐘音はついて回る。 この状況で護矢比古が逃げ延びる可能性は低い。 それも、かなり。

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