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迷った末に咲良が選んだのは、アザラシの赤ちゃんのヌイグルミだった。 「はいっ、シールを貼りましたので、このままお持ちいただけますよ、どうぞ~」 「あっ、ありがとうございますっ」 店員の手から受けとり、落とさないようにギュウっと抱き締める。 その一連の流れが可愛らしいと思う。 「可愛らしいお連れさまですね。 外国の方なのに、日本語も綺麗で……」 「いや、ああ、どうも……」 異邦人ではないし、だが、どう説明したものか。 別の次元の日本から来た花嫁で、見た目は子供だが15歳になっていると言う訳にもいかない。 思案している守弥に、咲良は曖昧な笑みを返す。 水族館名物のゼリーやクッキーなども買い、袋詰めにしていると、何とはなしに大きな鏡に目が行った。 守弥と、女性の店員、そして対照的な色彩の自分。 「………………っ」 琥珀色の肌と黒い髪の人々の中で、自分一人が浮いている。 今まで気付かない振りをしていたが、こうしてハッキリと目に突き付けられて絶句してしまう。 殊に、守弥は瞳も髪も夜の闇を溶かし込んだような艶のある黒。 時雨は甘さを含んだ目元をしているが、守弥の目は秘めた意志の強さがうかがえる。 ピシッとした背筋や均整の取れた体躯も相まって、涼しげで凛々しいと感じるのだ。 『男性に綺麗という表現を使ってよいのか分かりませぬが、本当に美しいと感じてしまいます…。 こうして洋装されてる時もですが、着物をお召しになられると、一層凛々しさが引き立って……』 守弥は自分が描く理想の男性像そのものだ。

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