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素直に驚き感嘆の声を漏らしていた咲良が静かになって、守弥はやはり障りが出てしまったかと焦っていた。
じわじわと涙が滲み、赤い瞳が潤んでいって。
ああ、やはり何処か痛みだしたのだなと思ったのだ。
「何でもありませぬ……、肌や目が痛い訳ではないのです……」
「………………とりあえず車に行くか 」
二人は小雨を避けて車に向かった。
腰を落ち着けてから、ゆっくり息をつく。
「申し訳ありませぬ。
守弥さまを困らせるつもりはなかったのです……」
じわじわ滲んでいた涙がひとつ、ほろと落ちる。
「どこも痛くないのなら、何か気になる事があったか?」
「………………」
「残してきた家族が気になったか……?」
「いえ……。
気になったのではなく、わたくしが咲耶であったなら……。
咲耶でなくとも、女子であったならと……」
「は……?」
「年相応の姿でありたかった。
咲耶そのものでなくとも、女子として生まれて来ていたなら、守弥さまを困らせることにはなってないのではと思ったのです」
「………………」
咲良の呟きに、守弥は言葉を失った。
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