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「藪から棒にどうした……?
俺はお前のことをそんな風に思ってないのに」
「はい……、分かっております。
なれど、なれど……、鏡に映る守弥さまと並んだ自分を見て思ったのです……」
「………………?」
「贄姫として来たのに……、この世界では花嫁として在らねばならないのに、わたくしは守弥さまに相応しくないと……」
「………………?」
悄々(しおしお)と項垂れる咲良に、守弥は掛ける言葉を探す。
確かに男子であったことは驚きであった。
守弥自身が関わりのある女子と比べても、もっとも淑やかで慎ましく、可愛らしいのは間違いない。
何より、苦手で難儀していた毛筆での仕事を一手に引き受けてくれたではないか。
どれ程に助かったか。
それに……。
「あー………………、あのな、咲良、よく聞け」
「…………?」
「約束を忘れたか?自分を卑下しない、と」
「…………はい……」
「過小評価もするなよ?
……本宮に籍を置く男達のほぼ全員が毛筆で難儀していたところに、あれだけ流麗な文字を書くお前が来てくれて、どれだけ助かったか分かるか?」
「…………?」
「誰も書き手がいなくて、ばあ様しか書く人間がいなかった祝詞やご朱印帳もだ。
あれを引き受けてくれたからこそ、日々の仕事も祭りの準備もサクサク進んでいるんだ。
背丈がなんだ?
小さくて可愛いと、皆が喜んで構い倒そうとしているじゃないか」
「………………?」
「咲耶ではなく、お前だからだ。
もう一度言うぞ。お前だからこそ、皆が喜んでいるんだからな」
改めて言い含められて、咲良は目を丸くした。
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