182 / 668
・
レジでの会計待ちをしている間も、心臓はトクトクと高鳴ったままだ。
『こんな事は……初めてでございます。
何なのでしょう……。
守弥さまに笑い掛けて頂くのが嬉しくて……心が沸き立ちまする……』
胸元に手を当て、逸る鼓動が落ち着いてくれるように願う。
『あちらにいた時は、こんな事はありませんでした……。
どうして起こるのでしょう……。
時雨さまやごきょうだいには起こらない。
……守弥さまにだけ……。
わたくしは、どうなってしまったのでしょう……』
「おっ?守弥じゃねえの?」
「…………?」
横合いから声がかかり、思案から意識がそれた。
「し、……志朗?」
「ほえ……?」
振り返った先に立っていたのは、分家の志朗と鷲志だった。
反射的に咲良は守弥の陰に隠れ、守弥も後ろ手で咲良を庇うような体勢になる。
「久しぶりじゃん。
あれ?ばあ様は一緒じゃねえの?」
「珍しいよね、ばあ様のお供じゃないの?」
「ばあ様は……家でまったり中だ」
「ふぅん……。
ばあ様のお供じゃなきゃ殆ど山から降りてこないと思ったら、女連れで買い物か?
あの不細工はどうしたんだよ」
「………………っ」
志朗が自分の事を言っているのだと気付き、咲良は守弥の服の裾をキュッと掴む。
『どうしましょう……。
やっぱりわたくしでは、花嫁として認めていただけない……。
咲耶のように綺麗な女子であったら……』
ジワジワと視界が滲んで仕方なかった。
ともだちにシェアしよう!