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レジでの会計待ちをしている間も、心臓はトクトクと高鳴ったままだ。 『こんな事は……初めてでございます。 何なのでしょう……。 守弥さまに笑い掛けて頂くのが嬉しくて……心が沸き立ちまする……』 胸元に手を当て、逸る鼓動が落ち着いてくれるように願う。 『あちらにいた時は、こんな事はありませんでした……。 どうして起こるのでしょう……。 時雨さまやごきょうだいには起こらない。 ……守弥さまにだけ……。 わたくしは、どうなってしまったのでしょう……』 「おっ?守弥じゃねえの?」 「…………?」 横合いから声がかかり、思案から意識がそれた。 「し、……志朗?」 「ほえ……?」 振り返った先に立っていたのは、分家の志朗と鷲志だった。 反射的に咲良は守弥の陰に隠れ、守弥も後ろ手で咲良を庇うような体勢になる。 「久しぶりじゃん。 あれ?ばあ様は一緒じゃねえの?」 「珍しいよね、ばあ様のお供じゃないの?」 「ばあ様は……家でまったり中だ」 「ふぅん……。 ばあ様のお供じゃなきゃ殆ど山から降りてこないと思ったら、女連れで買い物か? あの不細工はどうしたんだよ」 「………………っ」 志朗が自分の事を言っているのだと気付き、咲良は守弥の服の裾をキュッと掴む。 『どうしましょう……。 やっぱりわたくしでは、花嫁として認めていただけない……。 咲耶のように綺麗な女子であったら……』 ジワジワと視界が滲んで仕方なかった。

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