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「″あの不細工″とは、誰の事だ?」
「……っ、き、決まってんだろ?あのガキの事じゃねえか」
「…………」
ああ、やはり、と、咲良は身を固くした。
「兄ちゃん、言い過ぎだろ?
しっかり確かめもしないでさ、不細工とかあんまりだと思うぞ」
「あ?何だよ、守弥の肩を持つのか?
年寄りみたいな白髪してて、真っ黒な刺青なんて普通じゃねえだろ?
しかもあんな小さいガキなのにだぜ?
まともな文明が無いとこから来たかも知れねぇだろ」
「「………………っ」」
流石に頭に来たのか、守弥からユラリと陽炎が立ち上ったように見える。
「お前だって嫁にする気が無いから、別の女をつれてんじゃねえのか?」
ぐいっ!
「ひゃっ!」
咲良は急に腕を引っ張られた。
「ほら、やっぱり女連れ……、へ……、お前……っ!」
「………っ、………離してくださいませ……っ!」
必死で志朗の手を振りほどき、守弥にしがみつく。
「驚いたな、不細工かよお前」
「………………っ」
服の裾をギュッと握る咲良を、守弥は庇うように腕で包み込んだ。
微妙に不穏な雰囲気を感じ取り、周囲の買い物客が四人を避けていく。
「あっ、あのさ、人の往来もあるし、ちょっと移動しない?」
鷲志が気を利かせて守弥と志朗の間に割り込んだ。
「隣のファミレスに個室あるしさ、お互い車に荷物積んだらちょっとだけ、ね?」
「………………分かった。
だが、咲良に少しでも何かあったら、問答無用だぞ」
「…………お前、いつのまにロリ……」
「あ、うんうん!余計な事を言いそうなら、俺が全力で阻止する!
息の根止めてでも阻止するからさ!」
「ふががっ!」
兄の口をがっつり押さえ、鷲志が志朗をズルズル引きずっていく。
果てしなく気は重いが、守弥も荷物を手に車に向かった。
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