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「守弥っ、何やってんだよ!
兄ちゃんも馬鹿じゃねえのかっ!」
「守弥さま!手を開いてくださいまし!」
煙草を取り上げた右の掌。
真っ赤な熱傷があった。
「あああ……っ、なんてことを……っ!」
どれだけ痛いかと思うと、血の気がどんどん下がっていく。
半ば泣きそうになりながらも、咲良は守弥の手を引いて水道がありそうな場所を探した。
「水場は……っ!」
突き当たりのトイレの扉を見つけ、洗面台で手を冷やす。
「…………っ」
「しみるかも知れませぬが、我慢してくださりませ」
「いや、そんなに心配するほどのことでもな……」
「大したことではないとでも?」
「…………」
平素のおっとりした様子とは正反対の険しさをはらんだ瞳に、守弥も言葉がない。
「沸騰したお湯よりも、もっともっと熱いのですよ?
あんな熱いものを握り潰すなんて……っ!」
引こうとする手を押さえ込み、咲良は守弥の手を流水で冷やし続ける。
「いや、その、見た目よりは痛くな……」
「痛くない筈がありませぬ!
あんな熱いものを握り潰して、熱くも痛くもないなどと言わせませぬっ!」
「………………」
身体中の表面の温度がおかしい、心臓もドクドクと早鐘を打って視界も滲んで、足も声も震える。
それでも、言わねばならないのだと自分を内心叱咤しながら、咲良は言葉を継ぐ。
下を向いて見えなくなったが、どういう表情なのかは守弥もわかった。
向い合わせの、鏡の中の咲良がいたから。
「わたくしを……、わたくしを気遣っての、事だと分かって……おりまする。
でも、……でも、ご自分の掌を焦がしてしまうなんて……っ!」
「………………っ」
漸く背丈が伸びてきた咲良の目の前で、志朗が煙草に火を点けた。
それを咄嗟に握り潰すという行動に出たのも、自分を気遣っての事だと咲良にはわかっている。
それでも、言わねばならないと。
「わたくしの為に、……わたくしの為に、破魔の大弓を引かねばならない大事なお手を焦がすなんて……っ!」
「………………」
ボロボロ泣きながら、咲良は守弥の手を冷やし続けた。
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