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「心配だったんだよ。
身内以外にはあまり情が動かなかったから、姫乞いしても進展しないんじゃないかってね。」
「………………」
「煙草を握り潰したことは誉められたものじゃないけど、副流煙は害になるものばかりが含まれてる。
咲良の成長や健康を阻害するって思ったら、咄嗟に掴んじゃったんだと思う。
それってさ、咲良が兄さんにとって大事な存在になりつつあるってことなんじゃない?」
「………………でも……。
わたくしは咲耶の代役に過ぎませぬのに……」
何とはなしに、床の模様を見る。
「じゃ、聞くね。咲良は?」
「…………?」
「咲良にとって兄さんはどう?」
「…………どう……と……?」
自分にとっての守弥は……。
「いつも、わたくしを気遣って下さって……でも、気持ちをゴリゴリと押し付ける訳ではなくて……優しい方なのだと思います」
「うん」
「…………一緒にいると……安心いたしまする」
「うん」
「でも、時々…………」
「時々……?」
「心の臓が跳ねまする……」
「跳ねるんだ?」
「はい。
早鐘を打つようになったり、ぎゅーっと締め付けられたり……」
咲良の言葉を、時雨は辛抱強く待った。
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