209 / 668

開花

たった一晩。 ほんの、数時間のことだった。 咲良の身長が20センチほど伸びていた。 変化はそれだけではない。 心臓の真上に、桜の痣が広がっていた。 「なんでいきなり範囲が広がったんだ……」 「わたくしにも分かりませぬ……」 一晩で増えた痣は一つ二つではなく。 十を越えている。 思い当たる節はない。 「気になることは幾つもあるけど、丈の短いパジャマじゃ風邪を引いちゃうからねぇ。 時雨、合いそうな服を見繕ってきておくれ」 「りょ~かい」 混乱気味の咲良を気遣って付き添う守弥。 少しでも落ち着かせようと背中を擦っていると、妙な違和感に気付いた。 両手が同じように使えるのだ。 「………………?」 寝る前にチリチリと響いていた痛みを感じない。 「痛く……ない……?」 「え?」 「昨日の火傷が?まさか……」 「ばばに見せてごらん」 一晩で簡単に痛みが引くような火傷ではなかった筈だ。 包帯を外し、ガーゼを取り去る。 「「………………っ!?」」 その場にいた全員が目を疑った。 「うそ……」 「あれだけの火傷が……」 「そんな……、まさか……」 煙草が原因で負った筈の火傷が、綺麗サッパリ消え失せていたのだ。

ともだちにシェアしよう!