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完全に二人の意識が失われたのを確認し、ばあ様は咲良の額に手を当てた。 「…………」 さして抵抗を受けることもなく、昨夜寝入る辺りの記憶へ遡る。 「咲良、見せておくれ」 『………………は……い………………』 「…………」 普段の咲良の声と、可愛らしい少女の声が重なっているように感じたが、そちらを探るのは後回しにして記憶の遡上を優先する。 完全に眠ったあとの咲良が、守弥の右手を壊れ物のように両手で包むところまで戻れた。 『守弥さま……』 火傷を負った掌を、心臓の真上に当てる。 『なんと……、なんとお痛わしい……。 ………………さま……』 誰のことかは分かる。 守弥のことを案じたのだろう。 『わたくしが、もっと…もっとしっかりしていたなら…!』 「………………」 ばあ様の手に伝わってきたのは、咲良が抱いた思いの丈だ。 守弥を駆り立ててしまった、自らの幼さ。 年相応であれば、このように心配を掛けずに済んだのではないのか。 未熟さゆえ、幼さゆえの罪。 ならば、それを罰として身に受けよう、と……。 『すべてをわたくしに……』 キュウッと胸元に掌を押し当て、念を籠める。 『くださりませ……』 ゆっくりと、掌から火傷が切り離されていく。 苦痛の全てが浮かび上がり、そのまま……。 『……く……ぁ……っ、………………っは…ぅ…』 咲良の心臓へと吸い込まれていく。 『あ……つい……っ、…………ぁあ……』 まるで、胸に焼けた杭が打ち込まれるような痛みが襲う。 それでも咲良はやめない。 痛みも熱さも引きつれも、ひと欠片残さず吸収していく。 『………………っ、っふ……ぅ………………』 全てを引き受け切った瞬間、胸元がほんのり光る。 その光がジワジワと引いた後には、黒い桜が浮かび上がった。

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