211 / 668
・
完全に二人の意識が失われたのを確認し、ばあ様は咲良の額に手を当てた。
「…………」
さして抵抗を受けることもなく、昨夜寝入る辺りの記憶へ遡る。
「咲良、見せておくれ」
『………………は……い………………』
「…………」
普段の咲良の声と、可愛らしい少女の声が重なっているように感じたが、そちらを探るのは後回しにして記憶の遡上を優先する。
完全に眠ったあとの咲良が、守弥の右手を壊れ物のように両手で包むところまで戻れた。
『守弥さま……』
火傷を負った掌を、心臓の真上に当てる。
『なんと……、なんとお痛わしい……。
………………さま……』
誰のことかは分かる。
守弥のことを案じたのだろう。
『わたくしが、もっと…もっとしっかりしていたなら…!』
「………………」
ばあ様の手に伝わってきたのは、咲良が抱いた思いの丈だ。
守弥を駆り立ててしまった、自らの幼さ。
年相応であれば、このように心配を掛けずに済んだのではないのか。
未熟さゆえ、幼さゆえの罪。
ならば、それを罰として身に受けよう、と……。
『すべてをわたくしに……』
キュウッと胸元に掌を押し当て、念を籠める。
『くださりませ……』
ゆっくりと、掌から火傷が切り離されていく。
苦痛の全てが浮かび上がり、そのまま……。
『……く……ぁ……っ、………………っは…ぅ…』
咲良の心臓へと吸い込まれていく。
『あ……つい……っ、…………ぁあ……』
まるで、胸に焼けた杭が打ち込まれるような痛みが襲う。
それでも咲良はやめない。
痛みも熱さも引きつれも、ひと欠片残さず吸収していく。
『………………っ、っふ……ぅ………………』
全てを引き受け切った瞬間、胸元がほんのり光る。
その光がジワジワと引いた後には、黒い桜が浮かび上がった。
ともだちにシェアしよう!