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向い合わせで膝の上に咲良を乗せた医師は、早速髪の毛に軽く指を絡めた。
「ほう……。
髪も睫毛も眉毛も綺麗な白銀と、血の色を透かした緋色の瞳。
紛れもないアルビノだが、病的な感じは見受けられないな。ふむふむ……。
で、これが痣だな?
刺青とは違う色……。作り物では決してない。
だが、色素性母斑的なものとも違う……。
発色がなぁ……、綺麗すぎるな……、んん?」
傍らにあるルーペで拡大しようとした手が止まった。
「ほほう……。
そっちの若いのより面白いな、おまえ」
「へ……?」
「普通なら見えるが、これを通すと……。
見てみろ、まったく違うだろう?」
指し示された場所を守弥とばあ様が見る。
「「……………………っ!?」」
きょとんとする咲良の肌には間違いなくある色彩。
だが、ルーペを通してみる肌は……。
「無い……」
黒い桜の痣がない。
「普通に見るとあるのに、何かを通すと見えない。
病的なものではなく、肌の表面上すれすれに存在するもののようだな……。
なかなかに興味深い」
「肌そのものには影響していないということかい?」
「そういうことになるな。
肌の表面上すれすれ……。磁力とも違う……物体の表面に継続して浮き続ける塗料も存在しない。
本家ではどう見ているんだ、大ばば」
「親きょうだいの災厄を引き受けた代償に浮かび上がるもの……と本人から聞いてる。
呪力が表面化したものと捉えてるよ」
「…………ばあ様っ」
慌てる守弥をばあ様が制止する。
「大丈夫。
これは一族の一人だから問題ない。
口も固いし、なにかと頼りになる。
そうだね、荊櫻(りお)」
「りお…………?
荊…………櫻……、まさか、鏡の鬼夜叉!?」
「よく分かったな」
咲良を膝の上に乗せたまま、医師は少々物騒な笑みをこぼした。
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