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「咲良、こっちに来い」
「…………?」
頭をぽんぽんとしてくれる医師に、何ら危険は無いような気がする。
確かに眼光が鋭いし、笑みは少し固いが……。
「なにも恐ろしいものは感じませぬが……。
それに……」
腹部から柔らかな波動を感じる。
「一つ……いえ、二つ……?
小さな波動が伝わってまいりまする」
「ほう……。勘もいいんだな、おまえは。
そうだ。双子がいる。
宿って間もないがな……」
「………………っ!」
守弥は息を飲んだ。
幼いころから聞かされて来た一族最凶(最強ではない)の鬼女の名前が荊櫻だった。
境界の裂け目を修復することはできないが、一族きってのサイコダイバー。
伝説の破壊神だの、女ターミネーターだの、歩く最終兵器だのと呼ばれている。
そして、細身でありながら熊を素手で倒すだの、機動隊を丸ごと潰しただの、目があった者は命がないだの恐ろしい噂は絶えた事がない。
その恐ろしい人物の膝に咲良はちょこんと座っていて、しかも荊櫻は懐妊しているという……。
血が一気に下がる。
冷や汗が滝のように落ちていく感触もある。
いや、背中を滑り落ちているのは氷塊なのではないか……?
「さ、さささささ、咲良、膝から降りろ……」
「ふええ?」
慌てて肩に担ぐと、荊櫻はクスクス笑いだした。
「妊娠も5回目になれば馴れたもんだ。
そんな軽い子供一人、なんてことはない。
姫乞いの儀式で此方に来た子供なんだ、狼藉なんかしないさ」
ビシイッ!
「うおおおおぅっ!」
本人は軽くしたつもりだろうが、そのデコピンはかなりの威力であった。
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