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「うおおおぅ……っ」 「守弥さま?ひゃっ!」 結構な痛みと衝撃に守弥が膝をついた瞬間、絶妙なタイミングで咲良は引っこ抜かれた。 「お前の診察は終わったが、こっちの診察はまだ終わってない。 勝手に切り上げるな」 「はわわ……っ」 額を押さえて蹲る守弥に駆け寄りたいが、懐妊したての妊婦に怪我をさせるのも憚られる。 ばあ様もニコニコしているし、逆らうのは得策ではないと読み、咲良は荊櫻に従った。 「素直なのは感心だな。 暴れるようなら気絶させようと思っていたが、空気を読んだか……」 「そのような振る舞いをなさるとは思いませぬが……、出来れば床に降ろしてくださりませ。 やや様に障りが出てしまったら大変でございます」 「……お前の体重など、軽いもんだ」 「お願いにございまする」 「構わんと言ってる」 「いけませぬ」 睨まれた者は石になるだの即死するだのと噂されている荊櫻と、咲良の視線が交錯する。 『守弥さまはとても怖れていらした……。 でも、そのような恐ろしい方には見えませぬ。 逆らうのは得策ではありませぬが、お腹のやや様に障りが出るのも良くないこと……。 どういたしましょう……』 『ふむ……。 気の読みもいいし、察しもいい。 強情な訳ではないが、自分をしっかり持っている。 ばあ様が気に入るのも分かる……。 つか、この小動物っけ満載で見つめられると、こっちの毒気がどんどん抜けそうだ……』 暫しの持久戦ののち……。 「……ちっ………………仕方ない」 根負けしたのは荊櫻だった。

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