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昼までにはまだ時間がある。 守弥から料理の本を探したいと聞き、ばあ様が目を丸くした。 「煮物と焼き物しか知らない守弥が料理の本!? 魚は捌くよりも串焼きの守弥が? 本当かい?ばばの聞き間違いじゃないのかねぇ」 普段の守弥は焼くか煮るしかしない。 たまに炒めることもあるが。 「さくらが来てくれてからは食卓が賑やかになったけど、まさか書写だけじゃなく料理も習うのかい?」 「いや……、習うんじゃなくて……」 「習わずにぶっつけ本番とかやる気かい……? なんだかとてもすりりんぐだねぇ」 「いや、そうじゃなくて」 「おばあ様、わたくしの手習い用でございまする」 「さくらの?」 「はい」 「毎日趣向を凝らしたものを作ってるのに、料理の勉強を?」 「はい。 昨日、守弥さまと約束をしたのです。 毎日一品甘いものを拵えると」 「さくらが毎日一品?」 「はい」 咲良が頷くと、ばあ様の瞳が煌めいた。 「なんと!それはばばにも作ってくれるのかい?」 「もちろんでございます」 「ぐっじょぶだよ! そうかいそうかい、それならばばも出資しようかねぇ。 守弥、料理の本を選びに行くよ! 早く車をお出し!」 「お、おう」 一番料理本が充実している書店を目指して、車は走り出した。

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