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音とは、あちこちに響いて跳ね返るものだ。 木々や石、家々に当たり、複雑に聞こえる。 「貴方の身の内にいる呪いは、完全に次期さまの支配にいるわけではないようです。 それを利用しましょう」 「分身を作ったように、か」 「ええ。 香久良さんが社から出た瞬間から、警鐘音は鳴ります。 それを真似て里のあちこちで音を響かせるんです。 里の内と外で渦巻くように鳴り響かせながら全く違う方向へ走り、追っ手が惑っている間に遠くに離れて落ち延びる。 それが良いかと……」 「………」 分身がどれくらいの時間持たせられるかは分からないが、里の境界を越えてしまえば音は消える。 それまでの辛抱だ、と。 「山越えした先の村であれば、交易の荷を運ぶ時に紛れて貴方の母上を連れて行けます。 ………このような状況でなければもっと安全な道行きを選べましたが、そうも言っていられません。 先ずは、この里からできるだけ遠くへ逃げて下さい」 「俺の母を連れて来てくれるのは有り難いが、本当にいいのか? もし夜刀比古にバレでもしたら、あんた自身の身も危うくなるんじゃないのか…?」 「………そこは、なんとかなります」 「……本当にか?」 社を取り仕切る立場とはいえ、逆らう真似をしたらただでは済まないだろう。 本当にそれで良いのか、と護矢比古は言外に示す。 「大丈夫ですよ。 私はそれなりに身の振り方もかわし方も心得ておりますし。 それに…」 「それに?」 「獣腹の関係を断ち切って香久良さんがこの里を出ていくことは、私の願いでもありました。 一人一人に合わせて薬草を調合出来るのは、意外に難しいもの…。 叶うならば、遠い遠い国で医学というものを会得して欲しいと願っていたのですよ」 「………あんたじゃ駄目なのか? 今からでも遅くないだろうに」 「私では力量が足りません。 一を知って百を覚えるような者でなければ…」 「………全部終わったら、叶うかもしれない」 「そうですね。 希望は捨ててはいけない。 さ、この布で香久良さんをくるんで下さい」 不思議な色合いの布が差し出された。

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