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箱を渡してくれた時の笑顔を思い出す。
涼しげな目元が和らいでいて、胸がトクトクと高鳴った。
昨日の志朗に対して警戒していた表情。
痣が増えた咲良を案じた表情。
家電を真剣に検分していた表情も……。
どんな表情も、咲良の心をざわつかせる。
自分に向けられる全ての表情が。
『どんなお顔も……、いえ、一挙手一投足に心がざわめいてしまいまする。
今まで、どなたにもこんな風なことを感じたことは……。
凛々しくてお優しい……。
わたくしの理想そのものの守弥さまだから……?』
違う。
本当は分かっている。
憧れや羨望の感情などではないのだと。
『時雨さまは喜ばしいことだと仰ったけれど、身代わりで界を越えたわたくしが抱いても良い感情なのでしょうか……。
いけないことだと分かっているのに、胸が高鳴りまする。
気配を感じるだけでも、こうして……』
この部屋に足を向けた気配を感じるだけで、心が浮き立ち胸が高鳴る。
頬が緩んで、体温があがっていく。
誰かに聞こえてしまってないかと思うくらいに、鼓動が激しくなっている。
『どうしたらよいのでしょう……っ。
わたくしは、どうなってしまうのでしょう……』
床に突っ伏し、高鳴る鼓動が収まるように押さえてみる。
こんな感情を知られてしまったら……。
命に限りのある自分が、浅ましい思いを抱えていると知られてしまったら……。
『……怖くて……どうしようもなくなりまする』
一生懸命押さえるが、鼓動が激しくなるばかり……。
「どうした?具合が悪いのか?」
「………………っ!?」
急に引き起こされて、咲良は息を飲んだ。
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