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「もしかして、逆上せたのですか?」 「あ、いや、そうでもない……」 「まことに?まことにございますか……っ?」 「ああ……。何ともない」 「なら、良いのですが……」 大量に鼻血を噴いた日から、咲良は守弥の事を案じることが多くなった。 早く止めようとして延髄を叩こうとするし、じっとしているのに飽きて鼻をかんでしまう。 それで余計に止まらなくなるのだ。 家族や咲良に対する気遣いに反して、自分のことはとにかく処置が荒い。 大丈夫だと言って怪我の手当てを適当に済ませたり、あちこちガンガンぶつかっても気にもしない。 よく今まで命にかかわることにならなかったと思うと、咲良はいてもたってもいられなくなる。 「鼻血を噴いたのはあの日だけでございますが、明日はもっと忙しくなりまする。 無理や無茶はいけませぬ……」 「あ、ああ、いや、もう少し……」 「では、もう少しだけ……」 ただ、咲良も自分を後回しにしてしまう為に、守弥が気を揉んでいるのだが……。 似た者同士な二人を更に心配しているのが時雨だったりする。 「なんともないようですが、あまり長湯をするのもお体にはよくありませぬ。 そろそろ上がりませぬと……」 「ん?あ、ああ……」 もう少し浸かっていたいが、咲良の甲斐甲斐しさに負けて湯殿を後にした。

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