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沢山の甘いものをお供えして下がると、本殿から更にあたたかな気配がした。
神々の宴を邪魔してしまわぬよう、守弥と咲良は静かに石庭まで歩く。
「お気に召して頂けたようで、本当に良かった……」
「宵宮の前にこんなふうになるのは初めて見た」
「わたくしもです」
「咲良も……?」
「はい」
さやさやと梢を鳴らす風。
………しゃああん。
誘われるように泉に視線を向けると、微かに鈴が鳴ったような気がした。
その瞬間。
「………………っ、まあぁ……っ」
「…………こ、…これは……っ」
一斉に点った淡い光。
柔らかく明滅する命の炎。
「まるで……、まるで天の川が降り注いだようでございまする……」
「こんなに沢山の蛍は見たことがない……。
凄いな……」
導かれるように本殿から泉に来たふたり。
そのふたりを照らす蛍の大群。
「なんて美しいのでしょう。
守弥さま、わたくし……こんなに美しい明かりは見たことがございませぬ」
「俺もだ」
見目も楽しい菓子の数々へのご褒美なのだろうか。
淡く優しく明滅する光の中、ふたりはほうと息をつく。
ふわ……。
「まあぁ……っ」
微風に蛍の群れが舞い上がり、見上げた咲良と並ぶ守弥の視線が絡まる。
いつもと違うお互いの顔。
「………………反則だろ」
「守弥さまこそ…………」
潔斎中だというのに、止まれない。
チュ……ッ。
自然に重なる唇。
ほんの一瞬の軽い啄みは、体の中に熱を残した。
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