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夕刻……。 子供らによる稚児舞いが終わり、年若い氏子の舞いのあと……。 いよいよ咲良の出番がやって来た。 失敗や粗相は許されない……そう思うと、手や足に震えが起こり始めた。 「どうしましょう……。 胸が……ドキドキいたしまする」 「大丈夫だ。 舞台裏には俺も時雨もいる。 …………そうだ。お前の髪を結う紐と俺の紐を交換しよう」 「………………?」 「祭りの準備の期間ずっと身につけていた物だから、俺の気が移ってる筈だ」 「…………っ、」 「姿は見えないが、お互い離れていないことになる。 それなら、大丈夫か?」 「………………は、はいっ!」 急いで紐を交換し、銀髪を結い上げる。 「………………」 守弥の気が伝わってきて、激しい鼓動が収まっていく。 額と目元だけを覆う面をかけ直し、咲良は大きく深呼吸をした。 「行ってまいります」 「ああ」 肩に添えられていた手が背中を押してくれる。 大丈夫。 自分は一人で舞うのではないのだと心に決め、舞台へ上がった。

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