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鷺舞いのあとは、この神社の起源になった鬼の舞いだ。 穢れのない子供と鷺の舞いに誘われ、険しい山から降りてきた心優しい鬼。 人々を困らせていた疫病や妖(あやかし)を凪ぎ払い、干魃によって痩せ衰えていた田畑を甦らせていく。 その一連の物語を、守弥と時雨が舞いで紡ぐ。 険しい山々の向こうでも鬼を待っていた者達がいたし、鬼の通力に限りもある。 帰ろうと思えばいつでも帰れた。 だが。 里の者との関わりは、鬼の心を更に優しいものに変えていた。 「我はここにとどまり続けよう」 心優しい鬼は枝垂れ桜に姿を変え、今も人々を見守っている。 守弥と時雨が扮する鬼が手を振り上げると、今度はぶわりと淡い色の花びらが舞った。 「夏に桜の花びら……!?」 「綺麗……っ」 「さっきのお花と同じだ……」 「触れると消えるなんて、どんな仕掛けなんだろう……」 桜吹雪の中、幕の後ろに下がった二人も、今まで見たことのない現象に驚きを隠せないでいる。 「これって、大盤振る舞いすぎない?」 「ばあ様、大丈夫なのか?」 「ん……、200年振りの姫だから、神様からのサービスなんじゃないかと思うよ。 昨日のお供えも、いたくお気に召したんだろうねぇ……」 「………………」 戸惑いはあるが、祭りの進行を止める訳にもいかない。 神様からの後押しと受けとめ、ばあ様はゆっくり頷いた。

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