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舞いの興奮やばあ様の先手の衝撃が未だ残る状態だが、咲良は厨房に駆け込んだ。 「無理をしてはいけないよ、さくら」 「大丈夫でございます。 鷺舞いを終えてからずっと、頭の中に御菓子の数々が浮かんで仕方ないのです。 ご所望されているというより、わたくしの創作意欲が止まりそうになくて……」 怒濤の勢いで次々拵えていく。 昨夜の菓子も見事なものばかりであったが、今宵の菓子も美しい。 雫に閉じ込められた花や清流に揺れる梅花藻を模した和菓子、焼き菓子、ケーキ……。 箸休めの漬け物もある。 「さくら、腕を上げたねぇ……」 「よく分かりませぬが、作るのが楽しくて仕方ないのです。 こんなふうに心を突き動かされるのは初めてでございます……。 創作意欲が止まらないというより、衝動が止まりませぬ」 物凄い早さで仕上がるメレンゲは、色とりどりのマカロンになるようだ。 「咲良、こっちのプリンも申し分ない」 「あ、はいっ」 「カラメルソースもバッチリだ。 先に本殿に届けておくぞ」 「ありがとうございまする。 あともう一品……っ」 銅鍋で練り上げたものは、上品な甘さの葛餅。 「出来上がりました。 付喪神の皆さま、お願いいたします!」 「「おおっ!」」 見目も麗しい菓子、可愛らしい菓子の数々の行列が出来上がった。 厨房から本殿に向かう。 「お気に召していただけると良いのですが……」 「味も良いし、見た目も楽しいからさ。 きっと気に入ってもらえるよ。大丈夫」 「…………っ、……っ」 ぼふうっ!と、蒸気が噴き出しているのではないかと思う位に顔が熱い。 「自信持ちなよ。 咲良が作るものは全部美味しいんだから」 「え、あ……うぅ……」 「兄さんの胃袋もがっつり握っちゃってるし、氏子総代のじいちゃんにも気に入られちゃったからさ、もう観念しちゃいな」 パチンとウインクすると、時雨は立ち止まった咲良の背中をそうっと押してくれた。

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