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「……。
本来の花嫁は咲耶でございます」
違(たが)えようのない事実。
自分はあくまでも身代わりに過ぎない。
「んん~?
お姉ちゃんは料理が出来る?
ばあ様の代わりにご朱印帳書いたり、神事をきちんと出来る?」
「それは……っ、きっと出来るようになりまする。
一生懸命練習すれば書けるようになりますし、きちんと学べば神事も……っ」
「じゃ、宮に住んでる付喪神や式神を怖がらずにいられる?
ちゃんと、うまくやってける? 」
「…………っ、……っ」
一番痛いところを突かれた。
咲耶は不器用なところがあり、料理があまり得意ではなかった。
付喪神や式神の気配がするだけでもビクつき、注連縄の内に足を踏み入れることも出来ずに……。
「咲良だから、だよ。
咲良じゃなきゃ駄目なんだ。
兄さんの姫は一人っきり。咲良だけだよ」
「………………っ」
「咲良は大事な家族のひとり。
いや、家族っていうよりは、とっくに俺たちにとって大事な存在なんだよ。
それは、兄さんにとっても……」
「…………」
本当にそうなのだろうか……。
咲良は守弥に対して特別な気持ちを抱いているが、守弥は単に姫乞いの儀式と知らずに来てしまった咲良を気遣っているだけなのでは……と思うことがある。
何度か口づけをしてもいるが、軽く啄んで終わる。
昨夜の口づけは…………。
「………………っ、…………っ」
蛍の明かりに照らされた守弥は、いつもよりも優しい笑みで……男子である咲良から見ても惚れ惚れするほどの……。
思い出すだけで顔が熱くなる。
「前向きに考えてみて。
俺たちにとって、咲良は特別なんだからさ」
「………………」
守弥にとっても……?
それを望むのは、罪深いのではないのかと咲良は思う。
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