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「………でも……」 「ん?」 「わたくしが……、わたくしが良くても守弥さまは……」 「…………ん?」 「守弥さまも……、いえ、守弥さまにはお選びになる権利がございます……。 もし、泉の道が開いて咲耶が来れば……」 「………………」 道が繋がって咲耶が来れば、守弥の気持ちが移ろってしまうと咲良は思っているのだろう。 「咲良はどうしたい? 咲耶が此方に来るのがいいの? それとも……」 「…………わかりませぬ……。 贄姫は元々咲耶ですし、わたくしは身代わりでございます。 守弥さまは…………」 「ん?」 「…………守弥さまが……常に、幸せであることが、…………わたくしにっ、……とって……っ」 「へ……っ?」 ぽた。 ぽたぽた……。 緋色の瞳から、大粒の涙が落ちる。 「…………守弥さまの……お気持ち…………っ、が……」 「さ、咲良……?」 「お気持ちを……優先……するべきだと……」 「………………」 時雨から見た二人はどう見ても両想いなのだが、咲良は守弥の気持ちを計りかねているようだ。 『ちょ、世間ずれしてないっていうか、鈍うっ……! 兄さんを優先したり、大事にしまくったり……。 人付き合いがアレっていうか…………。 ああ…!?そういや同年代の関わりって、たまに顔出しするお姉ちゃんだけだったっけ……!! 空気は読むのに、自分に対する相手の気持ちとか、そういうことを読むのは結構鈍……っ! 鈍すぎだよ咲良!!』 ほろほろ泣く咲良の足元に、時雨がへたりこむ。 その周りで「大丈夫かお前」「苦労が絶えないねぇ」と慰めたのは、宮住みの付喪神の皆さんであった。

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