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一旦部屋まで戻り、汗を吸って重くなった衣裳を衣紋掛けに引っ掛けると、守弥は再び咲良を肩に担いだ。 空いた手には、綺麗な色のボトルを数本持つ。 「あ、あの、守弥さま……っ」 「お前が困るようなことはしない。 安心しろ」 「え、でも……」 「いいから」 「ふえぇ……っ」 弟妹達に見つからぬように内湯の脱衣所へ入り、戸締まりをきっちりする。 そのあとに守弥がしたのは、咲良の洗髪であった。 「あ、あの……っ、守弥さま、わたくし……自分でいたしまする……」 「いつも気を遣って手早く洗うだろう? たまにはしっかり手入れをしないとな」 「ふええ……っ?」 いつもは守弥が愛用しているシャンプーとコンディショナーなのだが、今日のものは香りが全然違う。 ふんわり甘く、キシキシと軋まない。 髪を洗うというより地肌を指で小刻みにマッサージする感じだ。 「どうだ? 引っ掛かったり痒いところはないか?」 「いえ……。 何といいますか、その……とても心地好くて……」 「そうか?」 「はい……」 背後で守弥がほっと息をつく。 『はうう……っ、守弥さまの息が背中や首筋に当たってドキドキいたしまする……。 それに……、こんなふうに触れられたら……っ。 背中と腰が……っ、ザワザワ……いえ、ゾクゾク…………、フワフワ…………。 あっ、あ…………っ、駄目……っ、……いけませぬ、変な声が出てしまいまするう……っ』 後頭部に触れられたあたりから、背中や腰にジワジワと痺れを感じる。 咲良は両手を口に当てて必死に耐えるが、どうにも変な声が出てしまいそうで、膝を合わせて爪先にギュウッと力を籠めるのだが……。 「ん……?痛かったか?」 「……っ、だ、大丈夫でございます……」 「肩に力が入ってるぞ。 何処か痒いところがあるのか?」 「いえ……」 「そうか?」 「にあああっ!?」 後ろから顔を覗き込まれて、心臓がバクッと跳ねた。

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