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前髪や頭頂、こめかみを守弥がしてくれた後、教えられた通りに指で地肌をマッサージするように洗う。 「痒い所はないな?」 「はい」 「毛先までは俺が洗うぞ」 「は、はい……」 壊れ物を扱うように、丁寧に守弥が洗う。 咲良はそれが申し訳なくて、手伝おうとするとやんわり断られた。 「うう……何故でございますか……」 「せっかく綺麗な髪をしているのに、お前が適当に洗うからだ。 地肌も髪も丁寧に扱わないと、大人になってから後悔することになるぞ」 「…………?」 「氏子総代のじいさんみたいに、つるっつるでズル剥けの頭になりたいか?」 「………………いやです」 「なら、我慢だ」 「………………はい……」 シャンプーのあとはコンディショナーを。 それを流した後には、仕上げの髪パックが待っていた。 艶も申し分無い仕上がりなのだろう。 器用に髪を纏めて、タオルで包んでくれた。 「ありがとうございまする」 「ん?ああ」 「あの……、……」 「ん?」 「……な、なんでもありませぬ……」 洗ってもらったお返しに守弥の髪を洗おうかと思ったのだが、何となく言い出せぬまま体を洗って湯につかる。 『何か、守弥さまに嬉しいと思っていただけるお返しを考えねば……!』 風呂上がりのデザートは冷蔵庫に入れてあるが、それはいつものものだし、なにか特別な何かを作れないか……。 守弥の背中を見ながら、一生懸命咲良は考えていた。

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