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なんとなく背中に視線を感じていた守弥だが、瞼の裏には咲良の姿がちらついて仕方ない。
紗の袿を被って泉の上を歩いてきた。
初めて見た素顔。
守弥を気遣ってこぼした涙。
無防備な笑顔。
不安なときに守弥の服を握る手。
たった一晩で一気に成長してしまった時も。
どんどん守弥の好みそのものの姿に成長してしていった日々も。
舞い上がる蛍の明かりの中で見上げてきた瞳。
鷺舞いの衣裳をつけた姿。
花吹雪の中で舞う様子。
咲良の全てが、守弥の心をざわつかせる。
『参ったな……』
思った以上に自分は溺れている。
………………咲良に。
単なる庇護欲だったり独占欲では、もう説明はつかない。
心だけではなく、胃袋もがっつり掴まれてしまっている。
滑稽なくらいに。
『優先しようとしたり付き従うのは、俺に対する申し訳なさなのか……?
それ以上のものを期待すれば咲良も戸惑うだろうし、強要も好ましくない。
慌てずにペースを崩さずにいるのが一番なんじゃないかと思うんだが……。
ばあ様が氏子のじいさんに先手を打ってしまったのも、戸惑っていたしなぁ……』
同じ年回りの人間との関わりが少なかった咲良を急かすのはよくない。
好意を無理に恋へとねじ曲げてしまうのも。
何度か唇を啄んではいるが、とうにお互い好意以上の想いを抱いていると、守弥も気づいていない……。
ガシガシと頭を洗いながら考えるのだが、守弥も考えが纏まらずじまいなのだった。
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