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湯上がりに守弥が着込んだのは甚平。
藍染めの上質な布で咲良が仕上げたものだ。
「…………っ、凄いな。着心地がいい」
「まことに?まことにございますか……?」
「ああ。市販の物だと微妙にチクチクしたりして苦手なんだが、これは抜群に着心地がいい。
ありがとうな」
「………………っ、……いっ、いえ……っ、お気に召していただけて、嬉しゅうございます……っ」
ぼふううっ!と、蒸気が噴き出してしまっているくらいに顔が熱い。
「はうう……っ」
洋装も良いが、こうして浴衣や甚平も様になる。
自分が一生懸命仕立てたものを喜んでもらえて、しかも、涼やかな表情を和らげて微笑まれると、もう天に上ったような心地だ。
「わたくしの仕立てで本当によろしいのですか……っ?
おばあ様やご母堂さまのお仕立ての方が、もっともっと着心地が好いと思うのですが……」
「ん?
お前が仕立てたものが一番着心地が好い。
どんなに高価な絹も、どれだけ熟練した職人もお前の手には敵わない」
「………………っ、……っ、…………っ」
何てことを口にするのだろう。
もしかして夢でも見ているのか、それも聞き間違えてしまっているのかと思い、頬を思いっきりつねる。
「ひぐっ!いたたたっ!」
「………………どういう反応なんだ……」
苦笑いしながら、ほんのり赤くなった頬に触れる。
「………………っ」
それすらも、咲良の中に熱を残した。
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