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「ふえ?ふあ……はにゃ……?」 「あー……、じっとしてろ。時雨、ティッシュと保冷剤持ってきてくれ」 「りょーかい」 スマホを仕舞い、時雨が台所に向かう。 「は、はにゃに……?にゃ……」 「逆上せたか……?風呂の湯はぬるめだったし、ドライヤーもそんなには……」 「もうひわへおにゃいまへぬ……」 「はいはいはい~、お待たせ~。 ティッシュと保冷剤~、持ってきたよ~!」 まだ出血している鼻はティッシュを当てて摘まみ、空いた手で伝った血を拭う。 「ありゃ~、甚平にもついちゃったなぁ」 「ホントだ……」 「ふえ……、はにゃにが……?」 鼻を摘ままれていて見えないが、やはり甚平にも血が伝い落ちているらしい。 「もにやはまにえやんれいららいらのに……」 緋色の瞳がじわじわと滲む。 縫い上げたのは自分だが、布を選んでくれたのは守弥だ。 折角選んでもらったのに汚してしまった。 「もうひわへおにゃいまへぬぅ……っ」 「……お、おい」 だばーっ。 大粒の涙がボロボロこぼれる。 「大丈夫だ、染み抜きすればちゃんと……」 「へもぉ……っ」 だばーっ。 「………………」 文字通りの滂沱の涙を流す咲良に、守弥が言葉を失った。

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