282 / 668
・
『……違う。
申し訳なさだけではないのですもの……』
守弥へ淡い想いを抱いた。
漠然としたものではなく、恋慕う気持ちを。
でも。
守弥は、咲耶が来れば……。
きっと……。
『本当の花嫁は咲耶。
守弥さまは……。いえ、守弥さまだけは……っ。
今のように唇を啄む相手は、わたくしだけであってほしい……。
咲耶にも同じようにしてほしくない。
そうなったら、わたくしはきっと……きっと……嫉妬に狂ってしまうかもしれない……っ。
でも、それはゆるされないこと……。
こんな気持ちを持っていると知られてしまったら、穢れたわたくしは嫌われてしまいまする。
黒い気持ちや、ぐるぐるするものを抱えているのを悟られてはいけない。
守弥さまにも、咲耶にも、申し訳ないことばかり……。』
そうっと抱き上げられてベッドの上に運ばれている間も、自分の中に渦巻く気持ちが苦しくて、咲良は大粒の涙をこぼす。
「今日は泣き虫だな」
「ふえ……?」
「そんなに泣いたら、目が溶けてしまうぞ?」
「…………っ、ん……、んん……っ」
瞼に優しく触れたのは唇。
擽ったくて首を竦めると、反対側の瞼に唇が落ちる。
「…………、や……」
「ん?」
謝らなければいけないことがいっぱいあるのに、意識が深いところへ持っていかれる。
「…………っ、……んぅ」
「落ち着いてから、ゆっくり聞く。
今はもう寝ろ」
「………………ゃ……」
必死で抗っても、意識が塗り潰されて。
咲良は眠りの淵へと落ちていった。
ともだちにシェアしよう!