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『……違う。 申し訳なさだけではないのですもの……』 守弥へ淡い想いを抱いた。 漠然としたものではなく、恋慕う気持ちを。 でも。 守弥は、咲耶が来れば……。 きっと……。 『本当の花嫁は咲耶。 守弥さまは……。いえ、守弥さまだけは……っ。 今のように唇を啄む相手は、わたくしだけであってほしい……。 咲耶にも同じようにしてほしくない。 そうなったら、わたくしはきっと……きっと……嫉妬に狂ってしまうかもしれない……っ。 でも、それはゆるされないこと……。 こんな気持ちを持っていると知られてしまったら、穢れたわたくしは嫌われてしまいまする。 黒い気持ちや、ぐるぐるするものを抱えているのを悟られてはいけない。 守弥さまにも、咲耶にも、申し訳ないことばかり……。』 そうっと抱き上げられてベッドの上に運ばれている間も、自分の中に渦巻く気持ちが苦しくて、咲良は大粒の涙をこぼす。 「今日は泣き虫だな」 「ふえ……?」 「そんなに泣いたら、目が溶けてしまうぞ?」 「…………っ、ん……、んん……っ」 瞼に優しく触れたのは唇。 擽ったくて首を竦めると、反対側の瞼に唇が落ちる。 「…………、や……」 「ん?」 謝らなければいけないことがいっぱいあるのに、意識が深いところへ持っていかれる。 「…………っ、……んぅ」 「落ち着いてから、ゆっくり聞く。 今はもう寝ろ」 「………………ゃ……」 必死で抗っても、意識が塗り潰されて。 咲良は眠りの淵へと落ちていった。

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