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「……………」 守弥の膝の上で、咲良が寝入っていく。 ほっそりとした手足も背中にも、情交をうかがわせる痣や印がない。 『一緒に寝起きしてても、全っ然手を出して無いんだなぁ……。 日に日に自分好みに育ってんのに、よく我慢してるよ……。 咲良が兄さんに対して好き以上の気持ちを持ってるの気づいてんなら、いっそ……』 手を出してしまえばいいのにと、時雨は思う。 姫乞いの失敗は、どちらかが石になる定め。 今の二人の力の均衡は、咲良が上だ。 守弥が石になる公算が高い。 だが。 家族の為にかなりの命数を使った咲良も、短命な可能性がある。 どちらも失ってしまうかもしれないということだ。 『どうして……』 時雨は守弥の気持ちを推し量れずにいる。 『どうして、兄さんは姫乞いを引き受けたんだろう。 成功した鬼は一人もいないのに……』 姫乞いの儀式の怖いところは、何を以て成立なのかが示されていないことだ。 心を通わせればいいのか、婚儀にこぎつければいいのか、子を成せばよいのか、正解が呈示されていない。 分かっているのは、タイムリミットがあることと、どちらかが石になることだけ。 古い記録を片っ端から漁ってみたが、姫乞いに挑んで成功した例がまったく見当たらない。 『花嫁に一年間のタイムリミットや石化のことを言うのは禁じられてる。 でも……、石化の前に咲良の寿命が尽きてしまったら……。 どっちも死んでしまうなんて、考えたくないよ……』 咲良が育った奥の宮がそうだったように、此方側の本宮にも禁域はある。 幼い守弥と時雨は見たのだ。 嘆き悲しむ表情を浮かべて石化した姫達を……。

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