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守弥と時雨が低学年に在籍していた夏休み。 分家の大人の煩わしさから逃げるように本宮に泊まり込んでいたある日……。 石庭で遊んでいた二人は、何かに誘われるように森の中に入った。 ばあ様や両親に、けっして入ってはいけない場所だと言い含められていたのにだ。 禁域の奥、巧妙に隠されるように建つお堂。 蔀戸の隙間から覗き込むと、人影がいくつもある。 不思議に思って中に入った二人が目撃したのは、嘆き、苦悶し、恐怖に歪む表情を浮かべた石像の数々……。 「なっ、なにこれ……」 「みんな苦しそうな顔をしてる……」 「女のひとのがほとんどだけど、男のひとも……」 ひとつの石を彫ったものとは考えにくい。 苦しそうな顔の石像を幾つも彫る人間がいるだろうか……? それに……。 髪の毛一本一本や睫毛まで細部にわたって彫り上げる技術があるのだろうかと。 「絶対に入ってはいけないと言ったのにねぇ……」 「「ひあっ!!」」 振り返ると、そこにいたのはばあ様であった。 「あのお堂にある石像は、みんな生きていた人たちだよ。 なんで石になったかは言えないけど、やむにやまれぬ事情があってねぇ……」 禁域から抜けるまでの帰り道、ばあ様は二人に石像のことを少しだけ教えてくれた。 何故石になったかは、何度聞いても教えてくれなかったけれど……。 だから、調べた。 大人は誰も教えてくれないから、禁域に関する文書を一つずつ。 もしかしたら、自分達にも関わりが出てくるかもしれない。 そう思いながら調べるごとに、不安要素しか出てこなかった。 その時の不安がいま、守弥と咲良に降りかかろうとしている。 『どうにか出来ないのかな……』 最悪の事態をどうにか回避出来ないか……。 時雨はキリキリする胃を押さえた。

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