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ふわ……。
香水とは違う肌の香りが鼻を擽る。
常にとはいかないが、傍にいると安心をもたらしてくれる香りだ。
『守弥さま……?』
物凄く近いところで守弥の香りがする。
まるで、ギューッと抱き締められているような……。
『はうぅ……』
嬉しくて、溜め息が零れる。
『もしかして、わたくし……守弥さまを独り占めしているのでしょうか……』
もしそうなら、これ以上嬉しいことはない……。
『守弥さま……、守弥さま……っ』
左胸に頬をスリスリしたら、いつものように髪の毛に指を絡めてくれるだろうか……?
『んふ……っ』
スリスリ……。
『………………?』
スリスリ…………。
『………………ふえ……?』
髪の毛に指が絡まない。
絶対的な安心感をもたらしてくれる鼓動も聞こえてこない。
『や……、いや……』
一生懸命守弥の存在を探す。
『何処でござりまするか……っ』
手に当たるのは布ばかり。
咲良の心を、悲しさが満たし始めた。
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