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なるべく起こさないようにと時雨達が静かに部屋に入ると、微かな泣きしゃっくりが聞こえてきた。
「……う……っ、……っふ……」
「…………?」
「…………うさこ…っ?」
「泣いてる……?」
布団を運び出した時は確かに眠っていた。
起こしてしまわないように、静かに運び出した筈だったのだ。
「うさこ……?」
守弥の甚平を掛けられ、俯せで寝ている咲良。
眉根を寄せて悲しそうな表情を浮かべていて……。
シーツの上を滑る左手は、何かを探しているようだ。
「……………なにか…探してる?」
「……もしかしてさ……」
「守弥兄さんかもねぇ……」
「……………いいなぁ……、探してもらえるの……」
「……寝てても離れてるのが分かるのってさ…………」
「それだけ、守弥にーちゃんが大好きってこと?」
「いいなぁ……」
「そうだねぇ……」
咲良の中に宿る想いはそれだけ深い。
そう思うと、自然に溜め息が零れる。
「……………………っ?」
「「…………………………え」」
ぱちり。
緋色の彩りが現れた。
「え、うさこ起きちゃ……」
「守弥にーちゃん呼ばなきゃ」
焦点が合っていないところを見ると、完全に起きた訳ではないらしい。
その緋色の瞳が、のろのろと辺りを見回してからウルっと潤む。
「………………う……え……っ」
その場にいた5人は息を飲む。
気持ち良さげに寝ていた赤ちゃんを起こしてしまったようで。
「……………お……しゃま……」
「……へ?」
「おー……しゃま……」
「え、うさこっ、まって……」
「まじ、ヤバすぎる!守弥にーちゃん……!」
ぶわっ!
大粒の涙が溢れ出した。
「………………?」
ばあ様に甚平のシミが取れるかどうか聞いていると、守弥の脳裏にフワリとなにかが横切った。
紗のヴェール……、いや、袿……。
「………………咲良っ!?」
「………………?」
いきなり踵をかえして走り出した守弥の後を、ばあ様も追った。
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