294 / 668
・
「ばあ様、聞いていいかな」
「ん?」
「……姫乞いって、成功例が無かったよね」
「…………っ」
一瞬息を飲み、暫し思案する。
「なんで兄さんは引き受けたのかな……。
禁域の……石になった姫達や、禁書のことだって知ってて……どうして……。
無理矢理とか強制じゃないんだよね?」
「………時雨が反対したように、ばばも止めたよ。
連れてきた姫が石になれば、対の鬼の命も大きく削られてしまうかもしれないことも伝えた」
「じゃあ、なんで……?」
「″解らないけれど、断る理由がない″って言ってたねぇ……」
「え……?」
「顔も性格も知らない相手と恋愛関係を構築するのは難儀なのも、魂欠けの自分の方が石になる可能性が高いのも、十分に解ってる。
でも、考えに考えても断る理由がない、ってね……」
「………………」
自分の方が石になる公算が高いのも知っていて、何故……。
時雨と同じ疑問を、ばあ様も持っていた。
「時雨も対の石を握って生まれてきたように、守弥も対の石を持って生まれてきた。
みんなそれぞれ形が違うし、姫乞いの兆候が出るか出ないかも違う。
時雨の石は綺麗な真ん丸の珠だったねぇ」
「あ、うん」
直径2センチにも満たない小さな石は、滔々と水を湛えた泉の色。
「兄さんのは、ほんのり白かったんだよね」
「そうだねぇ……。
白っぽくて何かの蕾のような形をしてた。
それが、花が咲くように開いて色づいたんだよ」
「え……?」
「2年半くらい前になるかねぇ……。
ほんのり白かった蕾が少しずつ色付いてきて……、ゆっくりゆっくり開いていったんだよ。
まるで、桜の花が咲くようにね……」
「…………!」
「大抵は対の石に現れる兆候は数日で落ち着くのに、守弥の石の変化は半年以上かかった。
その間に、思うことは沢山あったと思うよ……」
「それで、兄さんは石を見せなくなったんだ……」
以前はよく見せて貰っていた。
ここ数年、見せなくなったのはそういうことだったのか……。
合点がいった。
ともだちにシェアしよう!