295 / 668
・
対の石は、すべての鬼が持って生まれてくる訳ではない。
守弥の石のように変化があらわれる者や、一生涯変化がない者もいる。
「時雨の石も15年前に一度光ったけど、姫乞いの兆候が現れなかった」
「うん」
「同じ次元に対の姫がいる場合は、矢文のしるしが出ないからねぇ……」
「兄さんは出たんだね」
「そう。
綺麗だったよ。ほわぁっと淡く光ってね……。
見てみるかい?」
「へ?」
「ばばは、しゃったーちゃんすを逃さないよ。
ふふ……」
ばあ様がタブレットを取り出し、守弥の石の動画を起動する。
淡く明滅する石に、時雨が溜め息をこぼす。
「……うわぁ…、御神木の桜が月に照らされたみたい……。
兄さんのは、こんな風に変化してたんだね……」
「みんなに見せないのは勿体無いって言ったんだけど、そのまま仕舞っちゃったんだよ」
「…………そっか……」
両親には言いづらかったのかもしれない。
守弥が魂欠けで生まれて来たことで、両親も分家筋から色々言われていた。
廃嫡され、姫乞いにも失敗したとなれば尚更……。
志朗と鷲志にも知られずにいたかったのだが、咲良を迎えに境界を裂いたのを見られてしまった。
咲良の存在を隠し通すことは難しかっただろうし、結果的にはいまの状態になっていたと時雨は思う。
「家族以外に心を動かすことが少なかった守弥が、さくらに対して番犬じみた行動をしたり、独占欲を持った。
少なくとも、あの二人が惹き合ってるのは間違いない。
身代わりの忌み子だとさくらは言ってたけれど、選定の泉を渡ってきてるし、間違いなく守弥の対の姫だよ」
「うん。
あれだけ惹き合ってるからさ……、成功して欲しいなぁ……」
「そうだねぇ。
ばばもそれをねがってるよ」
袋小路のような結果ではなく、御神木が満開に花を咲かせるような幸せな結果が訪れてほしい。
時雨とばあ様は、そう願った。
ともだちにシェアしよう!