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対の石は、すべての鬼が持って生まれてくる訳ではない。 守弥の石のように変化があらわれる者や、一生涯変化がない者もいる。 「時雨の石も15年前に一度光ったけど、姫乞いの兆候が現れなかった」 「うん」 「同じ次元に対の姫がいる場合は、矢文のしるしが出ないからねぇ……」 「兄さんは出たんだね」 「そう。 綺麗だったよ。ほわぁっと淡く光ってね……。 見てみるかい?」 「へ?」 「ばばは、しゃったーちゃんすを逃さないよ。 ふふ……」 ばあ様がタブレットを取り出し、守弥の石の動画を起動する。 淡く明滅する石に、時雨が溜め息をこぼす。 「……うわぁ…、御神木の桜が月に照らされたみたい……。 兄さんのは、こんな風に変化してたんだね……」 「みんなに見せないのは勿体無いって言ったんだけど、そのまま仕舞っちゃったんだよ」 「…………そっか……」 両親には言いづらかったのかもしれない。 守弥が魂欠けで生まれて来たことで、両親も分家筋から色々言われていた。 廃嫡され、姫乞いにも失敗したとなれば尚更……。 志朗と鷲志にも知られずにいたかったのだが、咲良を迎えに境界を裂いたのを見られてしまった。 咲良の存在を隠し通すことは難しかっただろうし、結果的にはいまの状態になっていたと時雨は思う。 「家族以外に心を動かすことが少なかった守弥が、さくらに対して番犬じみた行動をしたり、独占欲を持った。 少なくとも、あの二人が惹き合ってるのは間違いない。 身代わりの忌み子だとさくらは言ってたけれど、選定の泉を渡ってきてるし、間違いなく守弥の対の姫だよ」 「うん。 あれだけ惹き合ってるからさ……、成功して欲しいなぁ……」 「そうだねぇ。 ばばもそれをねがってるよ」 袋小路のような結果ではなく、御神木が満開に花を咲かせるような幸せな結果が訪れてほしい。 時雨とばあ様は、そう願った。

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