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しゃぁああん…っ。 しゃ……りぃ…んっ。 不思議な音を聞き、夜刀比古は弾かれたように立ち上がった。 「警鐘音…っ!?」 渦を巻き、幾重にも重なる清らかな音色。 護矢比古が担いでいるのは香久夜の筈…。 半身である香久夜を亡きものにすれば、香久良は獣腹の子ではなくなる。 だからこそ、薬で眠らせておいた。 鳴る筈がない。なのに…? 「あの音を辿って、逃げた者を捕らえろ!」 「はっ!」 男達が駆けていく。 それにしても、音の共鳴りがひどい。 普通であればこのようには鳴らないのに…。 「何が起きてるんだ…」 夜刀比古もさすがに困惑の色を隠せない。 次期長の立場にある夜刀比古にも、里の全てが把握出来ている訳ではない。 それこそが香久良を逃がす為の策であった。 「いいですか、護矢比古の向かう方向とは全く別の村へ向かいなさい。 警鐘音の共鳴りに乗じて、貴女方自身も逃げ延びるのです。 分かりましたね?」 「………はいっ」 香久良と共に奥向きで暮らしていた娘達に、長は言い聞かせて来た。 自分達は息を潜めていなければならない。 里の人々に存在を知られてはいけない。 知られてしまったら、生きてはいけないから。 だが、ひとたび機会が訪れたなら、何が何でも逃げ延びねばならないと。 「駆けて駆けて、まとわりついていた音が千切れてしまうまで必死で駆けなさい。 捕まってしまったら、大辻に魔除けとして埋められてしまいます。 分かりましたね」 「はいっ!」 「さあ、いきなさい!」 一斉に娘達は駆け出した。

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