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今までにも何度か里に警鐘音が響いたことはある。 だが、こんなに渦を巻いたことはなかった。 「………どういうことだ…」 周囲の村への道はいくつかある。 それら全てに探索の手を伸ばせば、警備の手が足りなくなる。 「誰だ…。 誰が社から抜け出した…!?」 香久良ではない。 深く眠らせて社の奥で休ませている。 駆け回っていた護矢比古が担いでいたのは、身代わりの香久夜で間違いない。 確実なのは、香久夜では警鐘音が出ないこと。 奥向きで暮らしていた娘達の何人かは、生家の事情で社に預けられた者達なのは知っていた。 この騒ぎに乗じて逃げ出したのだろう。 一人で逃げるより、四方へ駆けた方が成功率もあがる。 「音の元をたどれ! 捕らえた娘は連れ戻せ! 呪いに染まったあの男は、担いだ女もろとも殺せ!」 「はっ!」 預けられていた娘達が逃げ仰せても構わない。 だが、交易している村々にこの里の後ろ暗い所を知られるのは得策ではない。 後々の交易に差し障りを出したくもない。 娘達は、薬草を扱う香久良ほどではないがそれぞれ得意な役割を担っていた。 その代わりを用立てるには、それなりに時間もかかる。 「面倒をかけさせるものだ」 捕縛したなら、二度と逃げようなどと思わないように重い罰を与えねばなるまい。 もともと、生涯飼い殺しの予定で預けられているのだから。

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