509 / 668

◆◇◆ しゃぁり…ぃぃん…っ。 しゃああぁぁぁん…。 「……?」 日向の香りと、慣れ親しんだ薬草の匂い。 大事に抱き抱えられているのと同時に、風を切るような音がする。 それから、星が降るような不思議な音。 「……?、え…?」 押し込められるように暮らしていた奥向きとは違う景色。 ゴツゴツした岩と、空を目指して伸びる木々。 「気づいたか?」 「も、り…?護矢比古!?」 「今はあまり話を出来る状況じゃない。 里境を越えないと、この音は止まないんだ」 「………っ」 護矢比古の家に行こうとして、何度か社から抜け出そうとしたことがあった。 あの時も、響いていたのはこの音だった…。 「境を越えればこの音は止む。 それまでは堪えてくれ」 「でも、護矢比古のお母さんは? お母さんを置いてはいけないわ!」 「大丈夫だ」 「でも…!」 「香久良を育ててくれたあの人が、俺たちの後を追って母さんを連れて来てくれる。 約束したんだ」 「………っ」 多くを話す人ではなかった。 叱られる事の方が多くて、きっと嫌われているのだと思ったくらいで。 「薬草の事を教えた。 その弟子が大切に想う人だから、最後まで面倒を見るからって」 「………っ」 「ここから道が険しくなる。 しっかり掴まっててくれ」 「うん」 ギュウッとしがみつくと、さらに速度が増した。

ともだちにシェアしよう!