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◆◇◆
しゃぁり…ぃぃん…っ。
しゃああぁぁぁん…。
「……?」
日向の香りと、慣れ親しんだ薬草の匂い。
大事に抱き抱えられているのと同時に、風を切るような音がする。
それから、星が降るような不思議な音。
「……?、え…?」
押し込められるように暮らしていた奥向きとは違う景色。
ゴツゴツした岩と、空を目指して伸びる木々。
「気づいたか?」
「も、り…?護矢比古!?」
「今はあまり話を出来る状況じゃない。
里境を越えないと、この音は止まないんだ」
「………っ」
護矢比古の家に行こうとして、何度か社から抜け出そうとしたことがあった。
あの時も、響いていたのはこの音だった…。
「境を越えればこの音は止む。
それまでは堪えてくれ」
「でも、護矢比古のお母さんは?
お母さんを置いてはいけないわ!」
「大丈夫だ」
「でも…!」
「香久良を育ててくれたあの人が、俺たちの後を追って母さんを連れて来てくれる。
約束したんだ」
「………っ」
多くを話す人ではなかった。
叱られる事の方が多くて、きっと嫌われているのだと思ったくらいで。
「薬草の事を教えた。
その弟子が大切に想う人だから、最後まで面倒を見るからって」
「………っ」
「ここから道が険しくなる。
しっかり掴まっててくれ」
「うん」
ギュウッとしがみつくと、さらに速度が増した。
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