510 / 668

ズキ。 ズキン…。 ギシギシ…。 ギリギリと締め上げられる感覚はずっとある。 四肢を辿り、心臓めがけて突き進もうとするもの。 『オ前ハオモシロイ。 ダガ、我ノ侵食ハモウ…』 「分かってる。 あと少し…。あと少しで境に…」 ひう…、トッ! 「………か、は…っ」 「も、護矢比古…っ!?」 風を切るようにして飛来したそれは、護矢比古の背に突き立った。 ちょうど太い木の根を越えようとしていた足がたたらを踏み、均衡を失った勢いそのまま斜面を転げて、紋様が刻まれた岩の下へと護矢比古は倒れ込んだ。 「ぅ…っ!」 ドサリ。 ずぶぅ…っ。 地面に香久良が叩きつけられないように庇ったあと、鈍い音が響いた。 「ぐ…っ」 「もり……、えっ!?」 構わず起き上がった護矢比古だが、胸元にも赤い染みが浮き上がり始めている。 「が…は…っ」 ごぼりと、唇から鮮血が迸った。 「い、や、うそよ…!」 「逃げ…ろ…」 「一人でなんか逃げられるわけないでしょう!?」 警鐘音は消えた。 里の境を越えた証だ。 なのに護矢比古をここで置いて行けるわけなどない。

ともだちにシェアしよう!