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そんな旅の果て。
ある夫婦の元に、魂は命を得る。
同時に宿った命は、心臓に重い病を抱えていた。
『いたい…くるしい…』
『いたいの…?』
『いたい…』
共に宿ったきょうだいを喪うことは耐え難かった。
『くるしいの、ぼくに分けて』
『…え?』
『ぼくなら、できる』
自分の内にある黒いものの残滓の影響だから、原因になった自分が引き受けると告げる。
『どうして?どうしてそんなこと…』
『とおいとおい昔に、ぼくの身代わりのために怖い目にあわせてしまったから。
そのつぐないに、ね』
『……?』
小さな手をそうっと向ける。
『ずうっと、あやまりたかった。
ごめんなさい…。
いたいの、ぼくがもらうね』
『……?』
痛みと苦しさを引き寄せると、代償は呪いの残滓とぶつかった。
『これ、で…、残りはあと…少し…』
深い眠りに落ちる赤子のこめかみに、フワリと黒い花が咲いた。
桜の花の形の黒い痣…。
片割れの赤子は羊水の中ですくすく育っていく。
痛みを引き受けた赤子は小さなまま。
産み月よりも早く陣痛が起き、二人は誕生の時を迎える…。
元気な女の子の咲耶と、小さいままで生まれた男の子の咲良、不思議な縁(えにし)で生まれた双子として…。
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